『星の王子さま』翻訳 多言語比較その2:「誰の利?」

先週土曜に「本のカフェ」で『星の王子さま』の翻訳について多言語比較でお話ししました~😊
ということをTwitterとブログ(この記事)でアップしたら、
いろんな方面からの反応があり、この作品は本当に広く愛されているのだなぁと実感しました。

その多くのみなさんがおっしゃるのが、
やはり王子さまとキツネが出会うシーンが一番印象的だということでした。

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このシーンでオリジナルのフランス語で使われている”apprivoiser”という単語の翻訳について、
イベント内でお話したこと+αを前回の記事に書きました。
今回は、そこで書ききれなかった別のポイントについてお話します。

<それは、誰の利?>

キツネが王子さまに「何を探しているんだい?」と尋ねると、
王子さまは「人間だよ」と答えます。
それに対するキツネのセリフがこちら。

-Les hommes, dit le renard, ils ont des fusils et ils chassent. C’est bien genant! Il elevent aussi des poules. C’est leur seul interet. Tu cherches des poules?

拙訳: 「人か」キツネは言った。「やつらは鉄砲を持って、狩りをしやがる。
まったく嫌になるよ。やつらはニワトリを飼ってて、○○○○○。
君はニワトリを探してるの?」

このC’est leur seul interet.に注目します。
interetは英語でいうところのinterestで、「興味」「利益」という意味です。
この文の翻訳をいろんな言語で見てみましょう。

英語:That is their only interest. (Katherine Woods訳)
オランダ語:Dat is hun enige nut. (訳者不明)
ドイツ語:Das ist ihr einziges Interesse. (Karl Rauch Verlag訳)
スペイン語:Es su unico interes. (Gaston Ringuelet訳)
イタリア語: E il loro solo interesse. (Nini Bompiani Bregoli訳)

文の形はみんな原文のものを踏襲しています。
オランダ語だけ、interest系でない”nut”という単語を使っているのが面白いですね。
nutの意味は英語でいうところのutility(有用性), profit(益、得)という意味なので、
元の単語interetの「興味」という意味を取らずに完全に「益」系にしぼったわけです。

そう、まずこのinteretは「興味」とも「益」とも解釈できる多義語なのですね。
そして、その「interet」は人間のものなのでしょうか?キツネのものなのでしょうか?
この文の形だと、どちらにもとることができるのです。
ここにもまた、両義性。これを両義性なしに明確に翻訳したのが、
現在英語で主流のHoward訳。That is the only interesting thing about them.
「それがやつらの唯一のいいところだな。」(拙訳)
これだと、interetの意味が「興味」であり、
それがキツネにとってのものであるというように、
1つの解釈に絞られています。原文に忠実に訳している英語初訳のWoods訳と、
わかりやすいHoward訳、あなたはどちらがお好みでしょうか?

さて、ここで日本語訳のバリエーションを見てみましょう。

内藤濯訳:それよりほかには、人間ってやつにゃ、趣味がないときてるんだ。
管啓次郎訳:ぼくが興味があるのはそれだけ。
池澤夏樹訳:ありがたいのはこっちの方だね。
大久保ゆう訳:それだけがあいつらのとりえなんだ。

内藤氏の訳は原文の構造そのままの直訳で、
interetは人間のものという解釈になっています。
しかし、文脈から見ると、残念ながらこの解釈は不自然ですね。
 ★狩りをするから人間はウザい(自分が捕まるかもしれないから)
⇒人間の趣味はニワトリ飼育しかない(←ん?狩りもしてるって言ってるのに・・)
⇒君はニワトリを探してるの?(←この流れからはちょっと唐突じゃない?)

管氏、池澤氏の訳は、interetはキツネのものとしていて自然です。
 ★狩りをするから人間はウザい(自分が捕まるかもしれないから)
⇒でもニワトリ飼育しているところはキツネにとってありがたい(自分のエサになるから)
⇒キミもニワトリが目当てで人間を探しているの?・・・という流れ。

そして私が一番好きなのは、大久保氏の訳。
この訳は原文の構造をほぼそのまま残していると言えますし、
しかも「あいつらのとりえ」という言い方だと、
そのinteretが人間のものともキツネのものとも取れるという両義性もあって、
原文の特性をそのまま日本語にも表せていると思うのです!
いや~、あっぱれです。

このシーンには他にもいろいろと面白いところがあるのですが、
ひとまず今回ブログで語るのはここまでにします。

日本語訳のリサーチをして一緒に発表してくれた木村さん
管訳の情報をくださった井上さん、ありがとうございます!

いろんな言語の翻訳を持ってきてくれた友人のしょうこちゃん、ありがとう!

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そして、興味深いコメントをくださった参加者のみなさま、
ツイッターで反応をくださったみなさまにも感謝です!

今後、こういった1つの作品をいろんな言語で読んでみる多言語読書会や、
ワンシーンをいろんな言語の響きで楽しむ多言語朗読会
そして様々な言語好きさんとトークする多言語トーク会などを
オンライン・オフラインどちらでもやっていきたいと思っています。

言語学系の言葉好きさん、
文学系の言葉好きさん、
創作系の言葉好きさん、
外国語に限らず、日本語が好き!という方も、
言語好きな方とことばを楽しむ場を持てたらと思っています。

というわけで、早速コミュニティーを作ってみました!
言葉好きの集い:ことのわ
言語好きな方、参加リクエストお待ちしております!

Facebookをやられていない方、
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イベント情報はこのブログやコトオンのTwitterコトオンFacebookページでも告知します。
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ちなみに・・・
「コトオンこあら」は、「コトバのコアなお話をする人々」というような意味でつけた名前ですが、
一応いまのところ仮名です(笑)。

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